撮りためて見ていないビデオを、病気のおかげで見る時間が出来た。
山田太一の作品を2作見た。
冬支度、と今朝の秋。
どちらも、笠智衆の、温和で達観した中に静かな寂しさを漂ういぶし銀のような演技が光る。
冬支度は、1980年、今朝の秋は、1985年の作品。
今朝の秋は、NHKの放送当時、深く印象を受けた作品で記憶しているが、改めて、深い感銘を受けた。
杉浦直樹の演技は定評があるが、この作品で非常に難しい演技を、これほどまでの完璧さで演じられるとは。
男が出来て家庭を捨てて出て行く母親に、文学座の筆頭女優である、杉村春子。飲み屋の女将を演じて、女の性に翻弄される弱さと、わがままでいい加減な性格の、死ぬまで女を匂わせる色気を漂わせる役所ははまり役。
死を宣告された息子の、嫁に倍賞美津子。夫婦仲は悪く、好きな男が出来て、自分のブティックに離婚後の生活をかけていて、夫に離婚を迫っていた。
訪れる人もなくひっそりと一人暮らしている老いた父親の元を訪れた嫁から、息子の命が短いことを告げられる場面からドラマは始まる。
普段は音信の途絶えている家族が、毎日のようにやって来て、息子は自分の病気の希望がないことを疑い、母親に迫る。泣いてしまう母親。
父親は、息子になにをしてあげられるだろうかと悩み、母親は、誤診だ、助からないはずはないと希望を捨てられない。
蓼科に帰りたい、という息子に、父親は、、
今から行こう、病院を抜け出して行こうと提案する。
蓼科に父親が連れ出したと嫁から報告を受けた病院では、本人の好きにさせてあげようと理解し、
病院にやって来た母親は、雇い人の樹木希林にレンタカーを運転させて、息子を連れ戻しに行く。
蓼科の夏は風が爽やかで、自然に抱かれて優しい。
息子が自分の死を嘆くと、父親は静かに笑いながら、
人間は皆死ぬ。多少の時間の差はあるが誰もが死ぬ。自分だけ特別なように言うな。と言う。
そうですね。でも僕は53です。少しぐらい特別なこととして認めてもらいたいよ。
蓼科に息子を連れ戻しに来た母親は、息子の穏やかな笑顔を見て、息子から、お母さんもここで一緒にいようと誘われ、留まることに。
嫁は娘を呼び戻し、蓼科に行こうと誘う。
男がいることを知っている娘は 、母親を責める。
他の男を愛した母親が行くべきではない、と。
、人を好きになることはどうしようのないことなの。あなたもきっとわかる時が来る。
じや、行かないで。父が可哀想。
ほっておくよりも、優しく側に寄り添うことの方が良いと思わないの?
そんな気持ちがあるのなら愛しなさいよ。お父さんを愛しなさいよ。
努力するわ。
蓼科の集った家族。
壊れた家族が、 夫と息子を捨てて、他の男に走った母親、捨てられた夫、俄かに、死を前にした孤独な息子を気遣いながら、ひと時の団欒と楽しい笑いを引き出そうと誠意を尽くす。
蓼科の秋が観たいと言う息子。
お葬式が済み、仏壇から、蓼科の秋の風情が見える。
笠智衆 、杉村春子、息子の杉浦直樹も、今はこの世から去った人々。
貴重な素晴らしい名作の中で、永遠に生き続けている。