カウンターテナー、フランコ、ファジオーリが歌う、ヘンデルの歌曲を、
母に会いに行くと、アイフォーンのユーチューブで、聴かせてあげている。
目があまり見えなくなって、遠かった耳が聞こえるやうになつている。
部屋の音響が良いので、アイフォーンからながれる音楽が、結構響く。
母は、耳元で囁く、ヘンデルの、
わたしを泣かせてください、を聴きながら、
わたしに笑みを浮かべる。
ヘンデルの歌曲は、神のメッセージのように、美しい声と、感性溢れるメロデイで、聴く人を癒す、
天上の音楽、という言葉が浮かぶ。
玉置浩二の、中国でのコンサートを収録した、行かないで、という曲も、母の心に響くようだ。
じっと耳を傾けて、時折、涙をなじませる、これらの曲。
名曲というのは、これほどの、人を引きつけて、癒すことができるのだ、とわかる。
母は、ターミナルに入って、ここ、何ヶ月か持ちこたえている。
自然に生きる力に委ねて、日々を重ねている。
わたしは、母の耳元で、天使の歌声で、神の愛を奏でる音楽をきかせながら、
微笑みの中で、天国に召されることができたら、
わたしの悲しみがどれほどふかくても、
これで良いと、納得できるような気がしている。