母が入居している施設でも、お雛祭りにちなんで、特別なおやつが振舞われた。
苦楽園の有名和菓子店から取り寄せた、雛まんじゅうと、おうす。
あとでわかったことなんだけど、入居者の娘さんが、お茶を立てるボランティアをされていた。
母には、おまんじゅうはなく、いつも出されているものだつた。
見ると、生菓子のようなので、こしあんですか?と尋ねると、そうだとの返事。
母は、食べられると思います。そちらの方を食べさせたいのです、とおねかいした。
母は、美味しいのか、笑顔で、口を開けてくれる。
わたしに出されたおうすもあげた。
和菓子とおうす。母が大好きなもの。
母に決められた食事は、ソフト食という、ミキサにかけたもの。
大塚製薬から出ている、形はあるが、舌で食べられるという食品は、別に購入して、食卓に並べてもらつている。
カロリーはほとんとなく、一品で、税込600円程。
月にすると結構な金額になり、施設の食費よりも高額になる。
全ての支出は母のお金だから、私たちが何も困ることはない。
子供の負担をかける親もいるから、母は、最後まで、子供の負担にならず、迷惑をかけるとはないだろう。
施設の職員達は、母は癒し、だという。
母がいつも静かに優しく微笑んでくれるのが、癒しだという。
難しい入居者がいる。
わがままで、人を叱りつける。文句ばかり言う。
テーブルの食事をひつくりかえしたり、投げたりする人。
他の入居者をいじめる人。
働く人の給料は低く、なり手が少ない。やめる人も多い。
正規の職員は、資格を持っていない人。資格を取って、向上心のある人は、転勤したり、別の会社に移る。
たった一人の男性入居者は、温厚で、おとなしいひと。
雛祭りのお饅頭と、おうすがとても美味しかったよう。
もう一杯、いかがですか?と言われて、嬉しそうに頷く。
向こうの席で、極端に慇懃で、一日中、文句ばっかり言っている人が、遠慮して食べないおまんじゅうを促されて、食べていた。
食べ終わって、出て行った。
再び戻ってきて、おやつをまだもらっていないことで、ひと文句。
職員は、謝って、テーブルに座ってもらって、新しいお饅頭とお茶を出した。
食べている間に、おうすを立てる。
食べたことを忘れて、無視されたと怒る。
あやまり、なだめる職員もストレスが溜まる。
母は、癒しだという。どの職員も、母の笑顔で癒されるという。
入居者の中に、母を好きだという人がいる。
おとなしくて、可愛い、好きやわ、と。
母は、施設でも、人の為に役立って生きている。
母が、こういう状態で、淡々と、何も求めず、生きている姿を見ると、長生きする意義を思う。